午後11時47分。
俺はふと思った。
「……ぷよぷよ、やるか」
別に深い理由はない。
今日は勝ちたい。
強くなりたい。
世界を変えたい。
そんな大それた話ではない。
ただ、
ぷよを消したかった。
それだけだった。
ゲームを起動する。
SEGAのロゴ。
そしてタイトル画面。
「ぷよぷよ」
俺はコントローラーを握る。
ここまではいい。
平和だった。
メニューを開く。
「対戦」
押す。
「インターネット対戦」
押す。
「ランクマッチ」
押す。
「マッチングしています……」
俺は待つ。
……
待つ。
……
まだ待つ。
「まあ、時間帯も時間帯だしな」
そう思った。
そして数秒後。
「対戦相手が見つかりました!」
早い。
俺は少し嬉しくなった。
「お、今日は人いるじゃん」
対戦開始。
名前を見る。
レートを見る。
俺よりちょっと高い。
まあ、いい。
多少強くてもなんとかなる。
ぷよが降ってくる。
赤。
青。
緑。
黄色。
俺は考える。
「よし……まずはここに……」
置く。
相手。
置く。
俺。
置く。
相手。
置く。
俺。
置く。
相手。
置くの速くね?
いや、まだ大丈夫。
こっちも連鎖を組む。
3連鎖。
4連鎖。
「よし、結構いい感じ――」
相手。
発火。
画面が揺れる。
5連鎖。
6連鎖。
7連鎖。
8連鎖。
俺、
「?????」
おじゃまぷよ。
大量。
盤面。
崩壊。
俺、
死亡。
「…………」
まだ1戦目。
まあいい。
次だ。
再戦。
今度こそ。
2戦目。
最初のツモを見る。
赤。
赤。
赤。
青。
欲しい緑が来ない。
「まあ、確率だからな」
待つ。
次。
青。
青。
黄色。
まだ来ない。
次。
赤。
赤。
青。
来ない。
「おい」
次。
黄色。
黄色。
赤。
来ない。
「いや、来いよ」
次。
青。
青。
青。
緑、どこ行った???
俺は思った。
これは運ゲーだ。
いや、ぷよぷよが運だけのゲームじゃないことくらい知っている。
知っているが、
今だけは運ゲーでいい。
欲しい色が来ない。
欲しくない色だけ来る。
そしてようやく緑が来た。
「来た!!!」
置く。
その瞬間。
相手、
8連鎖。
俺、
「なんで???」
おじゃまぷよが降る。
大量に降る。
俺は盤面を見る。
まだ生きている。
「いける」
そう思った。
しかし、
おじゃまぷよが、
×の位置に落ちる。
よりによって、
そこ。
俺が必死に残していた連鎖の起点。
そこに、
ピンポイント。
ドン。
「…………」
さらに落ちる。
ドン。
また落ちる。
ドン。
「いや、なんで全部そこなんだよ」
ぷよぷよをやっているはずなのに、
おじゃまぷよとの交渉をしている。
「そこだけはやめて」
「そこ以外ならいいから」
「頼む」
落ちる。
そこ。
終了。
「再戦しますか?」
俺は再戦を押す。
なぜ押したのか。
自分でも分からない。
人間は敗北すると、
なぜかリベンジしたくなる。
3戦目。
今度は相手が明らかに強い。
いや、
強いという言葉では足りない。
ぷよを置く速度が違う。
俺が、
「次どこ置こうかな」
と考えている間に、
相手はもう、
「次の次の次の次」
まで終わっている。
俺が1手考えている。
相手は4手進んでいる。
俺が盤面を見る。
相手は俺の盤面を見ながら自分の連鎖を組んでいる。
俺、
「人間か?」
そして発火。
9連鎖。
画面いっぱいのおじゃまぷよ。
俺は何とか耐える。
しかし、
欲しい色が来ない。
また来ない。
そして、
おじゃまぷよ。
また×。
ドン。
死亡。
試合時間。
約40秒。
俺はリザルト画面を見る。
負け。
レートが下がる。
「……まあ、レート戦だしな」
俺は自分のレートを見る。
ふと思う。
このレート、何の意味があるんだ?
自分より明らかに強い奴と当たる。
自分より明らかに弱い奴とも当たる。
連勝して上がる。
負けて下がる。
そしてまた強い奴に当たる。
「適正レート」とはいったい何なのか。
俺は今、適正な場所にいるのか?
それとも、
ぷよぷよ界のどこかで永遠に迷子になっているのか?
分からない。
ふとメニューを見る。
「称号」
俺は押す。
「称号を設定できます」
称号。
なるほど。
俺は思った。
称号って何?
「○○級」
「○○の達人」
「○○マスター」
色々ある。
でも、
俺は考える。
これ、誰が見るんだ?
俺が称号をつける。
相手が見る。
「へえ」
終わり。
俺がどんな称号を持っていても、
次の試合で8連鎖飛ばされる。
称号、
何の意味があるんだ。
俺は時計を見る。
午前0時。
ゲームを始めたのは23時47分。
約13分。
俺は思った。
何をしていたんだ?
勝ったか?
いや。
強くなったか?
分からない。
新しいことを覚えたか?
特にない。
楽しかったか?
…………。
俺はコントローラーを置く。
今日もぷよぷよをした。
そして、
何も得なかった。
ただレートが下がり、
欲しい色が来ず、
おじゃまぷよが×に落ち、
上級者に蹂躙され、
ウィッチに煽られ、
称号の意味について考え、
気がついたら夜が更けていた。
俺はタイトル画面を見る。
「ぷよぷよ」
美しいロゴだ。
長い歴史。
偉大なIP。
奥深いゲーム性。
そして俺は静かに思う。
「……寝ればよかった。」
ゲームを終了する。
画面が暗くなる。
午前0時02分。
俺の手元に残ったもの。
敗北。
レート減少。
疲労。
そして、
約15分間という、取り返しのつかない時間。
俺はベッドに入る。
目を閉じる。
明日も仕事がある。
もう寝よう。
……。
……。
「でも、あと1戦だけやろうかな」
俺は起き上がる。
コントローラーを握る。
ゲームを起動する。
SEGAのロゴ。
タイトル画面。
そして――
「ぷよぷよ」
俺は悟った。
これはゲームではない。
罠だ。