ぷよぷよにおいて、試合開始から最初の一手を置くまでの時間は、初心者からすると単に「ぷよが降ってきたから適当に置くまでの時間」に見えるが、実際にはこの短い時間の中に、その後の試合展開を左右する情報処理、盤面認識、ツモ確認、操作確認、精神状態の調整、相手盤面の確認、そして別にそこまで意識しなくてもいい呼吸や姿勢や体幹などが全部一緒くたに詰め込まれており、しかもこれらを一つずつ順番に「よし、今からメンタルを整えます」「次にツモを確認します」「次に姿勢を確認します」などとやっていたら普通にぷよが落ちてくるので、実際には全部をほぼ同時に処理する必要がある、という意味で、たった一手目なのに妙に忙しい。
まず試合開始前。
この時点では、まだぷよは動いていない。
画面も静かである。
ここでまずやっておきたいのは、「勝つぞ」という気合を入れすぎないことである。
もちろん勝ちたいので気合を入れること自体は悪くないが、「絶対に勝つ」「絶対に10連鎖を組む」「今日は全勝する」などと試合前から壮大な目標を掲げると、最初の一手でちょっとミスしただけで「終わった」となりやすい。
ぷよぷよは一手のミスが必ず即死につながるゲームではない。
むしろ一手目など、その後いくらでも修正できる。
したがって、精神的には「完璧な一手を置く」というより、「最初のツモを見て、現在分かる範囲で一番自然な場所に置く」くらいの温度感がちょうどいい。
ものすごく当たり前のことを言うと、試合開始時に人間は緊張する。
特に対戦相手が強そうだったり、連勝中だったり、配信をしていたり、オンライン対戦でレートがかかっていたりすると、「この一手をミスしたら恥ずかしい」という余計な意識が入る。
しかし、ぷよぷよの盤面はあなたの感情を一切考慮してくれない。
「緊張しているから今日は少しゆっくり落としてあげよう」などとはならない。
普通にぷよが落ちる。
なので、試合開始前に「自分が緊張している」という事実そのものを問題視しないほうがいい。
緊張していてもいい。
手が少し冷たくてもいい。
心臓がちょっと速くてもいい。
「やばい緊張してる」とさらに緊張するのが一番面倒なので、「まあ緊張してるな」で終わらせる。
そして画面を見る。
相手を見る。
自分のフィールドを見る。
ここで重要なのが、「相手を見すぎない」ことである。
相手のフィールドは重要だが、一手目から相手の盤面を細かく解析しようとして、「右から3列目に赤があって、その上に青があって……」などと考えていると、自分のツモを見失う。
開始直後はまず自分の盤面と自分のツモが主役であり、相手の盤面は「ざっくり確認する」程度でいい。
相手が何をしているか。
どんな積み方をしているか。
どの程度の速度で操作しているか。
そういう情報をぼんやり拾う。
しかし、ぼんやりでいい。
この「ぼんやり」というのが重要で、ぷよぷよでは視覚情報を全部文章化して理解しようとすると脳が死ぬ。
「相手の左端はこうで、中央はこうで、右側はこう」という実況を頭の中でやっていたら、その間に自分のぷよが勝手に落ちてくる。
だから、見る。
覚える。
でも細かく言語化しない。
「なんとなく相手は右寄りに積んでるな」くらいでいい。
そして自分の最初のツモが出てくる。
ここからが本番。
まず確認するのは色。
赤と青なのか。
緑と黄色なのか。
同色なのか。
縦なのか横なのか。
どちらが上でどちらが下なのか。
そして、それをどこに置くのか。
ここで初心者がやりがちなのが、「最初の一手だから何か特別なことをしなければならない」と考えることである。
別にしなくていい。
一手目は一手目でしかない。
ただし、一手目は盤面が空っぽなので、その後の連鎖構築の方向性をある程度決める重要な一手でもある。
この矛盾が面白い。
「重要だけど、重要視しすぎる必要はない。」
これが一番近い。
たとえば同色ツモが来た場合。
赤赤。
これは非常に単純である。
赤が2個あるので、とりあえずどこかに置く。
しかし、どこに置くかによって後の展開は変わる。
中央に置くのか。
端に置くのか。
左寄りに置くのか。
右寄りに置くのか。
これは戦術や構築方針によって変わるので、「絶対にここ」と言い切ることはできない。
ただし、初心者なら「今後置きやすい場所に置く」という考え方で十分である。
いきなり端に詰め込んでしまい、その後のツモを置く場所がなくなって困るより、ある程度中央寄りに余裕を残しておくほうが扱いやすい。
ここで突然「体幹」の話をする。
はっきり言って、一手目を置くために体幹を鍛える必要はない。
スクワット100回をしてからぷよぷよを始めても、一手目のツモが良くなるわけではない。
しかし、姿勢は微妙に大事である。
椅子に座っているなら、背中を丸めすぎない。
肩を上げすぎない。
肘を宙に浮かせ続けない。
手首を極端に曲げない。
コントローラーを握りしめない。
そして何より、ぷよぷよをやっているだけなのに戦場へ向かう兵士みたいな姿勢にならない。
肩に力が入り、
「来い……!」
などと構えていると、操作が固くなる。
一手目はもっと普通でいい。
座る。
画面を見る。
コントローラーを持つ。
呼吸する。
ぷよを見る。
置く。
それだけ。
呼吸についても一応触れておく。
深呼吸をすると精神が落ち着くという話はよくあるが、試合開始直前に「よし、腹式呼吸を3回して副交感神経を優位にして……」などとやっている場合ではない。
ぷよは待ってくれない。
ただし、一回だけ軽く息を吐くのは悪くない。
人間は緊張すると無意識に息を止めることがある。
特に対戦中、「このツモどうしよう」と考えていると、なぜか呼吸まで止まる。
別に呼吸を止めたところでぷよが上手くなるわけではない。
むしろ苦しくなる。
だから普通に呼吸する。
これだけでいい。
そして最初のツモを見たら、「今見えている情報だけで判断する」。
これも非常に重要である。
最初のツモから、
「このあと赤が来て、次に青が来て、その後黄色が来れば……」
と未来を妄想しすぎるのは危険である。
もちろんネクストを見ることは重要だが、まだ来ていないぷよを完全に決め打ちしてしまうのは違う。
ぷよぷよでは、未来のツモはある程度見える。
しかし、「未来にこうなるはず」と思い込みすぎると、実際に来たツモとのズレに対応できなくなる。
だから、
「今のツモ」
「次のツモ」
「その次に見えている情報」
くらいを材料にして、現時点で最も無理のない選択をする。
ここで「知識面」が出てくる。
初心者の場合、そもそも何を基準に置けばいいのか分からない。
そこで最初の目標は、「同じ色を4つつなげる」ことではなく、「あとで連鎖に発展させられるように、ぷよを散らして置く」ことくらいでいい。
ただし、「散らす」という言葉だけ聞いて盤面をぐちゃぐちゃにしてはいけない。
ぷよを全部バラバラにするのではなく、後から連鎖を作れる余地を残す。
つまり一手目から完成形を作ろうとするのではなく、「将来の選択肢を残す」。
これは非常に重要な考え方である。
一手目で完璧な連鎖を完成させる必要はない。
一手目では、「次のツモが何色でもある程度対応できる盤面」を作るほうが重要になる。
そして、この段階で「GTRを組まなきゃ」と思う必要があるのかという問題がある。
結論から言えば、初心者ならそこまで考えなくてもいい。
GTRを知っている人なら、「このツモならGTRの土台としてここに置こう」と考えることもできる。
しかし、GTRという言葉だけ覚えていて形を理解していない人が、無理やりGTRを作ろうとすると、ただの謎の階段状の何かができる。
そして本人だけが、
「これはGTRだから……」
と思っている。
盤面は何も理解していない。
ぷよは無情である。
だから知識は「使える範囲で使う」。
知識が判断を助けるなら使う。
知識のせいで判断が遅くなるなら一旦捨てる。
これが大切。
そして、最初の一手を操作するときには、「操作ミスをしない」ことも重要になる。
これは精神論ではなく、普通に物理的な問題である。
左へ動かしたいのに斜め上へ入る。
回転したいのに別のボタンを押す。
一列右へ動かしたかったのに二列動く。
下を押したら想定以上に落ちる。
こういうミスは、連鎖知識以前の問題である。
だから、コントローラーを持った時点で、自分の指がどこにあるかを確認する。
左手の親指はスティック。
右手の親指はボタン。
人差し指は必要なら上側のボタン。
握り方は自然。
そして、入力は「必要なだけ」。
左へ行きたいなら左。
右なら右。
回転なら回転。
余計な入力をしない。
特にぷよぷよは「一手を速くする」ことより「余計な操作をしない」ことのほうが初心者には重要である。
一手目から高速化を意識して、
左!回転!右!下!
とやった結果、
「なんでそこに置いた?」
という場所にぷよが落ちる。
これは速いのではなく、速く間違えているだけである。
ゆっくり正確に置く。
そして正確に置けるようになったら、少しずつ速くする。
これはぷよぷよに限らず、だいたい何でもそうである。
ここでまたどうでもいい話をすると、画面との距離も一応気にしていい。
近すぎると画面全体を見にくくなる。
遠すぎると細かいぷよが見えにくい。
だから「画面全体が自然に見える距離」にする。
これも体幹と同じく、別に数値化する必要はない。
「テレビから37cm離れるべき」などという謎の規則を作る必要はない。
自分が見やすければいい。
明るさも、眩しすぎないほうがいい。
部屋が真っ暗で画面だけが光っている状態より、ある程度周囲にも明るさがあるほうが目には楽。
しかし、これも一手目のぷよを置くために部屋の照明設計を始める必要はない。
普通でいい。
そして音。
ぷよぷよは音からも情報が入る。
ぷよが落ちる音。
回転音。
接地音。
消える音。
連鎖音。
相手側の動き。
こうした音をなんとなく聞いておくと、画面だけを凝視するより情報を拾える場合がある。
ただし一手目から「今の音は何Hzで……」などと分析する必要はない。
聞こえていればいい。
音量も大きすぎなくていい。
イヤホンを使うなら、周囲の環境に合わせて普通に聞ける程度でいい。
そしていよいよ最初の一手を置く。
ここで意識することは、
「決めたら迷わない」
である。
一度、
「ここに置こう」
と判断したなら、その判断に従って操作する。
もちろん途中で明らかに間違いに気づいたなら修正する。
しかし、
「ここかな……いや……こっちかな……いや……」
と考え続けて操作が遅れるのはよくない。
ぷよぷよはリアルタイムゲームなので、判断には時間制限がある。
だから、
見る。
考える。
決める。
操作する。
この流れを作る。
そして一手目を置いた瞬間に、
「完璧だったか?」
と評価しない。
まだ一手目である。
次のツモを見る。
次に置く。
また次を見る。
つまり、一手目は「試合の結論」ではなく、「試合の開始」である。
メンタル面で最も重要なのは、この感覚かもしれない。
「一手目で試合を決めようとしない」。
一手目が多少微妙でもいい。
二手目で修正できる。
三手目でさらに修正できる。
途中で連鎖構築の方針が変わってもいい。
相手が想定外の攻撃をしてきてもいい。
ぷよぷよは、最初から最後まで完璧な計画を実行するゲームではない。
降ってくるぷよと相手の行動を見ながら、その都度判断していくゲームである。
だから試合開始から最初の一手までに意識することを、無理やり全部詰め込んでまとめるなら、
「落ち着け、でも落ち着こうとしすぎるな。姿勢は普通でいい。肩に力を入れるな。呼吸を止めるな。コントローラーを握りつぶすな。画面全体を見ろ。相手も一応見ろ。でも相手を見すぎるな。最初のツモを見ろ。色を見ろ。向きを見ろ。ネクストも見ろ。未来を妄想しすぎるな。GTRを知っているなら使ってもいい。知らないなら無理に使うな。置き場所を決めろ。決めたら迷うな。左なら左。右なら右。回転なら回転。下なら下。余計な入力をするな。力を入れすぎるな。速くしようとするな。正確にしろ。一手目を神聖視するな。一手目で勝とうとするな。一手目で負けたと思うな。そして普通にぷよを置け。」
ということになる。
要するに、試合開始直後に必要なのは、超人的な集中力でも、完璧な戦略でも、鍛え上げられた体幹でも、精神統一でもない。
画面を見る。
ぷよを見る。
考える。
置く。
そして次を見る。
これだけである。
なお、体幹については本当にそこまで重要ではない。
ただし、長時間ぷよぷよをやるなら、肩と首と手首を変に固めないことのほうが、「体幹を鍛えてぷよぷよを強くする」よりは遥かに現実的に重要である。
そして何より、試合開始直後に「自分は今、メンタル・知識・体幹・呼吸・視線・指の位置・相手の盤面・ツモ・ネクスト・姿勢を全部意識している……!」などと考え始めたら、それこそ一番大事な「ぷよを見る」という行為がおろそかになるので、最終的には全部忘れていい。
ぷよが来たら、ぷよを見る。
これが最強である。