この話はフィクションです
ここ数か月、ほとんど通をしていないが、私は一応両刀プレイヤー、通もフィバも両方やりますよというプレイヤーだ。
とはいえ、フィーバーにおいて、通の感覚で潰しを撃ってもフィーバーではそれほど有効ではないのでただリソースを消化するだけになったり、逆に通をやるときに、フィーバーの感覚で少し強引に受けてしまうと、即、死という悲しい結末を遂げてしまったりと、まあなかなか互いの感覚を切り離してやるのが少し難しくもある。
なのでフィーバーをやるときにはまとめてフィーバーを、通をやるときはとことん通をやるというスタイルをとっていて、今はフィーバー熱(熱熱みたいでなんか変だな)が高いので、本当に数か月以上前の話である。
その試合は互いに連鎖を伸ばしあう大連鎖の勝負になったのだが、私は組むのが遅いらしく、相手とのリソースが離れてしまった。
その結果相手が先撃ち十分と判断し本線発火をされてしまった。
なんとなくの凝視で相手フィールドを見る。よくわからないがデカそうな本線ということだけはわかる。
私は伸ばす。別に昇格戦だとかそういうのではない、よくあるオンラインのガンスリングマッチだ。
別に負けてもいいのだが・・・
その時の私はなんというか負けたくなかった。ここで敗北したならば相手の中で私が下であると格付けされてしまうような予感があった。そしてそれはプライドの塊の私には許しがたいものだ。
伸ばす。必死で伸ばしにかかる。くそ、うまくいかない、ツモがかみ合わない。頑張れ自分、今までの15年をここにぶつけるのだ。今、お前が負けるという事はお前自身のぷよぷよ人生が否定されるということだ。負けるな、腹痛いのを我慢してオンラインにもぐっては初めて対人17連鎖を撃った時の自分も、オンラインマッチで2先とはいえプロプレイヤーに勝った自分も、ここで負けてしまえばすべて水の泡だ。
だが、現実は非情だ。無情にも私のフィールドには、おそらく相手の本線に足りないであろう連鎖量しかない。願わくば、雑に入れた邪悪な塔が、その邪悪を存分に発揮してくれ。
相手の連鎖が終わる。
と、それは私の伸ばしの時間の終了であるとともに、私の本線を発火する時間だ。発火色は自模れている。
いくぞ。意を決した私は本線を発火する。1連鎖、2連鎖。暴発の危険性を再確認する、大丈夫だ。
あとは返るのを祈るだけ・・・そう思ってた私の耳に異音が入る。
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
それは通常起こりえない、虫の羽音のような音量にすればさほど大きくない、しかしこと集中力をこのゲームに割いている私には非常に耳ざわりな音だった。
相手のフィールドに目をやると、相手がものすごいスピードでぷよを回転させている。本当に尋常ではない速度で回転させている。連射器でも使っているのだろうか。
ああしかし、耳ざわりだ。私の小さな祈りを妨げるかのごとくカサカサさせている。セカンドなんぞ知ったことか、俺はカサカサしたいんだという鉄の意志を感じる。それは私にはたどり着けない境地なのだろう、どんだけカサカサしたいんだろうこの人。
私の連鎖も終盤に差し掛かる。連鎖数で言えば相手の方が上だ。しかし連鎖数で勝てなくてもこの邪悪な塔が全て消えれば、すべて消えれば勝てる。
消えろー、と私は叫ぶ。純粋にこの勝負に勝ちたい。負けたくない。
そんな強い意志をもった私に一瞬ノイズが走る。
気が付くべきだったのか、気が付かないほうがよかったのかはわからない。
しかし、この時私は気づいてしまったのだ。
この塔はオブジェだ。張りぼてだと。
目の前が絶望に染まる。今までのぷよ人生が走馬灯のように駆け巡る。体から力が抜け呆然自失となる。
今わかるのは、自分が負けるということ、そして相手のカサカサ音だけだ。
そして私の連鎖は終了する。残ったのは謎のオブジェと返しきれなかった致死量以上分のおじゃまぷよ。
連鎖終了と同時にお邪魔がフィールドに降り注ぐ。
完全に心が折れた私はぷよを動かす気力がない。
私は負けたのだ。ちっぽけなプライドは粉砕され、敗者の印を押される。
せめて潔く自害すべきか、と思ったその時である。
相手がまだカサカサしていることに気が付いた。
なぜだもう勝負はついている、これ以上相手は操作する必要なんてないじゃないか。それなのになぜ設置を避けるあの如くカサカサしているんだ。
私は相手のカサカサ音に耳を澄ませる。カサカサする動きに目を凝らす。
ああもう接地しそうじゃないか、なぜそんなにまでしてまで粘るのか。
わたしに諦めるなと?
私は走馬灯の一つを思い出す。
あれは10年前、完全に負け確だった試合のことだ。
フィーバーでも相手の大連鎖を返せず、しかも相手が第二波を構えているという状態。
俺は負けたくない、その一心でカサカサしだした。
するとどうだろう、3こぷよの捌きが難しいためか、セカンドを高く構えすぎてしまったためなのか、相手が♥♥♥♥してしまったのだ。
あの時無駄に粘らなければなかった勝利。その試合で俺は最後まで諦めないことの大切さを知った。
そう、だ。俺は諦めないどんな時もだ。
自由落下させていたぷよがあと数秒で接地するであろうその刹那。私はコントローラーを狂ったように連打した。負けたくない一心で横操作をいれたカサカサだ。
まだ試合は終わってないあきらめるな。カサカサし続けろ。
相手フィールドをみる、相手はカサカサしだしてから横操作をなかったのか、それなりにぷよが3列目にたまっている。
普通に考えれば絶望的だ。だが試合は終わってないのだ、終わるまで諦めるものか。
私が横移動をいれたのに気付いたのか、相手も横移動をいれたカサカサをはじめた。
お互いにプルプルカサカサする。
けれども置かれている状況は対極。片や勝利の舞、片や最後のあがき。
それはほんの数秒のことなのだろう、だが私には無限にも等しい時間であった。
あきらめんなよ!と相手が鼓舞する、あきらめねえよ!と私が応える。
この瞬間私はたしかに対戦相手と会話していた。ツイッターやリアルの付き合いがあるわけでもない知らない相手と、語り合う。至上の時間だ。
そして、私のフィールドに2回目のおじゃまが落下してくる。なんとまだ生きている。ギリギリ3列目に隙間があった。
そしてしばしの猶予をえるが、相手のカサカサはもうやんでいた。そしてそれは私にもその理由は分かっていた。これ以上の会話はもはや不要、語ることは語りつくしたのだから
最後の時だ。今までの自分と別れを告げ、新しい自分をまた一から再構築する。ぷよぷよ道を再び邁進するのだ。
そんな気持ちに浸りながら、ぷよがお邪魔の上に設置し窒息する瞬間。
僕は回線を切った。